「ママ、メダカ持って帰ってくるから入れ物ちょーだい」
理科の授業で観察していたメダカのタマゴがかえった、とプリンの空き容器に糸くずくらいのメダカを2匹持って帰ってきた息子。
GW明け少しした頃のことでした。
小さな空きビンで「針子」といわれる稚魚より小さなサイズのメダカの飼育が始まりました。
赤ちゃんメダカは小さいうえに半透明で、目を凝らしてよくよく見ると確かにいるな、くらいの状態でした。
少しして、メダカのうちの1匹は底の方に沈んだまま動かなくなり、死んでしまいました。
残された1匹は、小さなビンの100cc程度の水の中で少しずつ大きくなり、老眼が始まりつつある母の目にもハッキリ確認できるくらいのサイズに成長しました。
やがて体長が1㎝ほどになり、ビンの中ではさすがにかわいそう、と15cm角ほどの小さな水槽にお引越しすることになったコメダカちゃん。
小さな水槽とはいえ、これまでの環境に比べたらとんでもない広さ。
水槽に1匹だけじゃさみしいよね、ということで夏休みに入るころ、祖母(ぺんぎんママのママ)の家から仲間を4匹お迎えすることになりました。
元々ウチにいたメダカと新入りの区別がつかなくならないよう、一緒にする前に名前をつけることに。
小さいのに元気にスイスイ泳ぐので、娘が「スイ」と名付けました。
スイは少し慎重でビビりなところがあり、初めて広い水槽に引っ越した時も、新しい仲間が増えた時も、最初は端っこの方でじっとしていたり、仲間に入れずに一匹だけ離れたところにいたりしていました。
新しい4匹ははみな同じ水槽からきた仲間ですが、スイだけは育った環境も、メダカの種類も違うのだから無理はありません。
正確な種類は分かりませんが、スイは少し顔周りがピンクがかっていて、他の4匹は全体的に白銀のメダカです。
それでも日が経つにつれて少しずつ新しい環境や仲間にも慣れて、元気に泳ぎ回っていたスイ。
他のメダカたちも少しずつ見分けられるようになってきて、体が白いのは「シロ」、赤みがかったのが「アカ」、一番大きいのが「ダイ」、食いしん坊が「モグ」と名付けられました。
ある日、シロが人口の水草の根元に挟まって動けなくなり、死んでしまいました。
メダカは狭いところに隠れたりする習性があり、自分で入ったところから出られなくなり衰弱して死んでしまうことがあるそうです。
同じように、アカも産卵床のスポンジの間で死んでしまいました。
続いてダイも、ブクブク代わりに使用していた外掛けフィルターの水を吸い込む部分に吸い寄せられて離れられず死んでいるのが見つかりました。
(通常はある程度の大きさまで成長していると吸い寄せられることはないようですが、別の理由で体力が弱っていたのだと思います)
にぎやかだった5匹の暮らしから、短い期間でたった2匹になってしまったスイとモグ。
少し寂しくなった水槽で、それでも2匹は元気に過ごし、体も一回り大きくなりました。
夏休みも中盤にさしかかるころ、スイが初めてタマゴを産みました。
メダカは自分の産んだタマゴや稚魚を食べてしまうことがある、と聞いたので、タマゴは別の容器に移して様子を見ることにしました。
夏の暑い時期です。
水温が高いと10日~12日くらいでタマゴがかえる、と書いてありましたが、そのタマゴはかえることはありませんでした。
タマゴは毎日水道水で水替えをしなければならないと知ったのは、タマゴがもう全滅してしまった後でした。
その後しばらくは変わらない毎日が続きました。
最初にスイを連れて帰ってきた息子は夏休みの自由研究の題材にメダカの観察を選び、毎日のエサやりや2日に1回の水替えも責任をもって取り組みました。
エサは1日に2~3回少量ずつ。
水替えはペットボトルに汲み置きでカルキ抜きした水道水を使用し、水槽の半量ほどずつ替えるようにしていました。
メダカたちの名付け親の娘はスイを大変かわいがり、水槽をのぞき込んでは「スイ~♪」「私が呼んだらスイが来てくれるねん」とご満悦でした。
夏休みが終わり、9月に入ってしばらくした頃。
久しぶりにスイがタマゴを産みました。
その頃のモグは見るたびにスイを追いかけまわしていて、スイは毎日のようにタマゴを産み続けました。
お尻にタマゴをぶら下げたスイが泳いでいるのを見つけた日は、夜に確認すると水草にタマゴが産みつけられていました。
それを手かスポイトで優しくとって、水道水を入れたタッパーに移します。
タマゴ同士がいくつかくっついているときは、そっとほぐして一つずつバラバラになるようにしました。
前回全滅させてしまったので、今度は失敗しないように、息子が毎日丁寧に水替えをしました。
前回は産まれたタマゴは変化を見せることはありませんでしたが、今回は透明なタマゴの中に、黒っぽいメダカの赤ちゃんの姿が見えてきました。
でも、そのままなかなか産まれてくる気配がありません。
調べると、メダカのタマゴや稚魚には日光がとても大切とのこと。
我が家では室内飼育で、キッチンとリビングの境にあるカウンターに水槽やタマゴの容器を置いていたのですが、場所的に窓からは遠く、日光が当たらない場所です。
そこでタマゴを入れた容器のみ、日中は日当たりのよい窓辺に移してみることにしました。
すると、効果はてきめん!
その日のうちに、小さなメダカの赤ちゃんが何匹が産まれました。
そのあとも、毎日のようにタマゴから赤ちゃんがかえりました。
一気ににぎやかになったメダカの家族。
産まれた赤ちゃんメダカは、スイが小さかった頃に過ごしていたプリンカップをいくつか用意して数匹ずつ過ごせるようにしました。
チビたちの中でも、体が小さく食の細い子は何匹か死んでしまいましたが、しっかり食べて大きく育ってきた子たちも出てきました。
スイとモグ、たった1組のカップルからこんなにたくさんのコメダカが産まれたので、この子たちが大きくなってまたタマゴが産まれたらどうしよう、なんて話していたある日・・・
スイが、水槽の下のほうにじっとしているのを見つけました。
スイはモグほど活発ではありませんが、そんなにずっと同じ場所でじっとしているのはあまり見たことがありません。
タマゴを産んでいるのかな?とも思いましたが、しばらくたって様子を見ても、いつものようにタマゴをぶら下げて泳いでいる姿も見られません。
メダカが底のほうにいるのは、水温が低いときや外敵から隠れたいとき、体調不良のときとのことですが、今年の10月はとても気温が高く、室内飼育の我が家では水温が低い(おおむね15℃以下)とは考えにくいです。
もちろん、鳥やネコなどの外敵もいません。
弱っているのかもしれない。
病気でしょうか。
それともタマゴをいっぱい産んで、体力を消耗したのでしょうか。
心なしか、元々モグより一回り小柄なスイがより小さく見える気がしました。
いろいろと調べて、「塩水浴」という方法を知りました。
メダカは淡水魚ですが、5%程度の塩水で泳がせることで、体力回復や一部の病気の治療にもなるということです。
数日の塩水浴を経て、スイは元気になりました。
水槽の下の方でじっとしていることはなくなり、以前のようにゆったりと泳ぐ姿を見せるようになりました。
慎重に水合わせ(塩水から濃度を徐々に薄めて、元いた水槽の水質に合わせていくこと)をして、久々にモグと同じ水槽に戻りました。
モグは大喜び!
スイの姿を見ると嬉しそうに近づいては周りを泳ぎ回ります。
「どこ行ってたの?」「待ってたよ」と言っているようでした。
スイの方も、久しぶりに戻った水槽で落ち着いて過ごしているように見えました。
塩水浴中は基本的に絶食でしたが、水槽に戻ってエサを食べる様子も確認できました。
でも、そんな日は長く続きませんでした。
スイはまた水槽の底の小石の間に身を隠すようにじっとして過ごすようになりました。
スイのことが大好きなモグがあまりに追いかけ回すので、身を隠す場所を探しているのかと思い、隠れ家になるようなオブジェを探さないといけないね、と話していました。
その日の夕方、帰宅し水槽を見るとスイは体を半分斜めにして明らかにぐったりした様子でした。
のぞき込むと水面に向かって2、3度フワッと飛ぶように泳ぎましたが、その後はずっとじっとしたままでした。
体調が完全に戻っていなかったのかもしれません。
もう一度塩水浴をさせようと急いで別容器を用意し、網でスイをすくおうとすると、もう水底に横たわったまま動こうとしませんでした。
なんとかすくいあげて塩水に移し様子を見ましたが、そのまま動くことはありませんでした。
2024年10月23日。
スイは眠るように死んでしまいました。
みんなが帰ってくるのを待っていて、最後に泳いでいる姿を見せてくれようとしたかのようでした。
小学校の理科の学習でタマゴからかえり、小さなビンで我が家にやってきて約5か月。
飼育方法もよく知らない素人の家に迎えられ、カルキ抜きもしていない水道水に突っ込まれたり、たった100ml程度の水の中で過ごしたり、適度な水替えもしてもらえなかった時期もあったりと過酷な環境だったにもかかわらず、すくすく育ったスイ。
ビンから水槽に移ったとき、砂利やエアレーションを導入したとき、新しい仲間を迎えたとき。
環境が変わるたびに水槽の端っこで固まっていたビビりのスイでしたが、最終的にはモグとの間にたくさんのコメダカを産んでくれました。
今はモグと20匹余りのコメダカが元気に過ごしながら初めての冬を迎えようとしています。
5か月の短い間だったけど、スイは2㎝足らずの小さな体で子どもたちにいのちを預かることの大変さを教え、家族に笑顔と癒しを与えてくれました。
我が家の小さな家族を想って、ここにそのいのちの軌跡を残します。
スイ、ありがとう。
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